久留米の情報誌SECONDに乗せてもらったコラムです。
難易度が高いのである。
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温泉は好きだろうか?
大分県は近年、その温泉の多さを活かし”おんせん県おおいた”のキャッチコピーのもとPR活動を行っている。
なるほど確かに温泉は多い、大分県内で車を走らせたらいくつもの温泉の標識をみることになる。どこに行こうか選び放題だ。
僕は今、大分県で温泉につかっている。
ただ、ここは難易度が高い。
温泉の難易度が高いとはどういうことか、例えば人里離れた秘境にあってたどり着くには、車などは使えず、自分の足を使って数時間歩くしかないようなアクセスが壊滅的に悪い温泉。
はたまた、有毒ガスが湧出する火山地帯にあり、命がけで行かなければいけない温泉。
どこであろう、僕は今、天ケ瀬温泉に来ている。
アクセスは、久留米からだとJR久大線に乗ればよい、天ケ瀬駅から降りれば温泉は目の前である、したがって交通のアクセスという観点からは難易度は低いことになる。
では、命にかかわるような火山性ガスが出ているかというと、そんなガスは出ていない命に対する難易度は低めだ。
天ケ瀬温泉は筑後川上流の玖珠川沿いにある、川岸にいくつもの温泉があり、湯けむりがあがっている。
それぞれに別々の湯の名前がついているのだが、僕が入っている温泉はその中の”神田湯(じんでんゆ)”。
時間は夜の九時、露天風呂からは、川のせせらぎを眺めることができ、空を見上げれば、星空が見える。
最高のロケーション。
満天の星、ということは、屋根がない。
川を見れる、ということは、壁がない。
川岸に石造りの露天風呂があるのだ。
ついでに言おう、脱衣所?そんなものはない。
吹きさらしの風呂の横にあるのは、銭湯でよく見るケロリンの黄色い洗面器2つと、料金100円と書いてある料金箱のみ。
そして極めつけに川の対岸には成天閣という旅館が客間の灯りとともに僕を見下ろしている。羞恥心という点の難易度が高めなのである。
浴槽は一つしかないので混浴なのであるが、女性は恐らく入れないであろう。
むしろ、ここに喜んで入ろうと思うのは、露出狂などの変態ではと思うくらいである。
しかも無色透明のお湯なので、昼間であれば道行く人からは、あらやだ!なものがユラユラと見えるのである。
前回ここ神田湯に入ったのは昼間だったな、まだ20代だった、若気の至りというやつである。
露天風呂の気分がよいところというのは、家の風呂と違って解放感があるところだ。
ところは変わるが、湯布院の金鱗湖畔に日本昔話みたいな茅葺きの建物がある、”下ん湯”という温泉なのだが、あそこもよかった、温泉に入りながら、湖を眺めることができ楽しい気分になったものだ、
最近は金鱗湖との間に衝立が設置されて、湖が見わたせなくなったのは残念なことだ。
僕が温泉に求めるのは解放感なのかもしれないなあ。
はたとここで、気が付いてしまった。
「解放感」。
露出狂が求めるのも解放感である。
川のせせらぎと夜の帳(とばり)が僕を見つめる。
まさかね・・・・僕は・・変態・ではないよね・・・・よね
しかしそういえば露出狂は夜に出てくるらしい。
まさかね・・・
おうし座のアルデバランが65光年の彼方から一瞬光った、そんな気がした。